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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)1745号 判決 1967年2月21日

原告 勝間勝己

右訴訟代理人弁護士 中西清一

右訴訟復代理人弁護士 筒井貞雄

被告 狩野寿美

<ほか五名>

右被告側各訴訟代理人弁護士 狩野一朗

同 伊藤増一

同 滝島弥之輔

主文

原告の被告狩野寿美(所有権移転登記抹消登記手続請求)および同泉佐野市に対する訴えは、いずれもこれを却下する。

原告のその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(一)  原告の求める裁判

(1)、被告狩野寿美は原告に対し、別紙目録(一)、(二)記載の各不動産(以下、本件不動産という)につき、大阪法務局佐野出張所昭和二九年一二月二四日受付第四、四一八号をもってなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(2)、被告狩野寿美は原告に対し、大阪地方裁判所岸和田出張所昭和三一年(ヨ)第一三号競売手続停止仮処分異議事件につき、昭和三一年四月二八日原告と同被告との間に成立した裁判上の和解が無効であることを確認する。

(3)、被告伊藤昇一は原告に対し、本件不動産につき、同法務局同出張所昭和三一年八月九日受付第二、七四七号をもってなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(4)、被告泉佐野市は原告に対し、同被告が被告伊藤昇一に対する市税滞納処分として昭和三三年四月一八日付で本件不動産に対してなした差押処分および同年八月二〇日付でなした公売処分がいずれも無効であることを確認する。

(5)、被告株式会社第三相互銀行(以下、被告第三相互という)は原告に対し、本件不動産につき、同法務局同出張所昭和三三年八月二〇日受付第三三六四号をもってなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(6)、被告株式会社六鹿商店(以下、被告六鹿という)は原告に対し、本件不動産につき、同法務局同出張所昭和三四年一月二六日受付第一九八号をもってなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(7)、被告中野繁夫は原告に対し、別紙目録(二)記載の不動産につき、同法務局同出張所昭和三五年一月一九日受付第一四二号をもってなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(8)、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

(二)  被告らの求める裁判

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、主張

(一)  (請求原因)

一、本件不動産はいずれも原告の所有に属するものであるところ、原告は、他より融資を受けるための方便として、被告狩野寿美の夫である狩野一朗と通謀して右不動産を同被告に仮装譲渡し、別紙登記一覧表1欄記載の所有権移転登記をなした。

二、しかるに右不動産については、その後、同一覧表2ないし5欄記載の各所有権移転登記がなされている(ただし、被告中野の登記は別紙目録(二)の不動産についてのみ)。

三、しかしながら、被告狩野寿美名義の右所有権移転登記は前記のとおりの仮装譲渡にもとづくものであってなんら実体関係に符合せず、また、その他の所有権移転登記も右被告狩野名義の登記を基礎とするとともに、後記のごとく無効な公売処分を基礎とするもので、同様に実体関係に符合しない登記である。

四、一方、原告と被告狩野寿美との間の大阪地方裁判所岸和田支部昭和三一年(ヨ)第一三号競売手続停止仮処分異議事件において、昭和三一年四月二八日別紙和解条項記載のごとき内容の裁判上の和解が成立した。しかしながら、右和解は次の理由によって無効である。

(1)、本件和解は、事件の当事者でもまたその代理人でもない訴外狩野一朗が関与して成立したものであるが、事件に関係のないかような者の関与した裁判上の和解は違法な手続によるものであって無効である。

(2)、かりに右の理由によって無効でないとしても、本件和解はその要素に錯誤があるから無効である。すなわち、当時原告は、片山弁護士に依頼して被告狩野に対して本件不動産の所有権確認抵当権設定登記抹消請求訴訟を提起していたものであるが、原告が本件和解に応じて前記和解条項を承諾するにいたったのは、担当裁判官である山東判事から「右所有権確認の本訴は必ず原告の敗訴となって本件不動産は競売されてしまうであろう、そうすれば一文の金も入らぬであろうが、和解に応じれば多少の金は入ってくるであろうから、和解をした方がよい。」旨の勧告を受け、さらに代理人である片山弁護士からも「訴訟の方は到底勝訴する見込みがないから、相手方の和解条件を承諾するよりほかはない。和解をしないのならば自分は辞任する。」と和解をしょうようされて、所有権確認の本訴が敗訴するに相違ないものと信じたからにほかならないのである。しかるに当時、本件不動産の所有権は原告にあったのであり、右本訴において原告が敗訴すべき筋合は全くなかったばかりでなく、右不動産に対する競売申立人である訴外井上政市から原告が金員の借入れをなした事実もなかったから、これが正当に競売されるはずもなかったというべきであり、したがって、右の和解は錯誤にもとづくものといわなければならない。

五、さらに、被告泉佐野市は、被告伊藤昇一に対する市税滞納処分として、昭和三三年四月一八日本件不動産について差押をなし、次いで同年八月二〇日これを公売処分に付した。しかし、右差押および公売処分は次の理由により無効である。

(1)、右差押当時、本件不動産については滞納租税債権に優先する担保権が付着し、その被担保債権額は合計一九、八五〇、二一〇円に達していた。しかるに右不動産の処分見積価額は五、六六九、二〇〇円にすぎなかったから、かような不動産に対する無益な差押は国税徴収法四八条二項により禁止されていたものといわなければならない。

(2)、のみならず本件公売処分は、本件不動産につき被告第三相互に優先する担保権を有する大阪府中小企業信用保証協会および豊川農業協同組合の優先権を無視して被告第三相互に違法に優先弁済を得させるとともに、その代償として同被告に寄付名義で被告伊藤の滞納税金四一四、六一五円を納付せしめることを目的としてなされた被告泉佐野市同第三相互間の不法な談合にもとづいて行われたものであるから、この点においても右処分は無効である。

六、よって原告は、被告狩野、同伊藤、同第三相互、同六鹿、同中野に対し、前記各登記の抹消登記手続を、被告狩野に対し右和解の無効確認を、被告泉佐野市に対し右差押および公売処分の無効確認をそれぞれ求めるため、本訴請求に及んだ。

(二)  (答弁および抗弁)

一、原告の被告狩野寿美に対する本訴請求は、民訴二三七条二項に違反して提起されたものであるから、不適法というべきである。すなわち、原告より被告狩野寿美に対する大阪地方裁判所昭和三〇年(ワ)第一九八四号不動産所有権移転登記抹消請求事件につき、昭和三一年三月三一日原告の請求を棄却する旨の終局判決がなされたものであるが、右訴訟は、被告寿美が原告所有の本件不動産につき、ほしいままに別紙登記一覧表1欄記載の所有権移転登記をなしたことを理由にその抹消登記手続を訴求するものであって、本件訴訟とは同一の訴えというべきものであった。しかるに原告は、右訴訟を終局判決後控訴審において取下げたものであるから、本件訴訟はまさしく民訴二三七条二項に違反して提起された不適法なものといわなければならない。

二、本件不動産がかねて原告の所有であったこと、本件不動産につき原告主張のごとき各所有権移転登記がなされていることは認める。しかしながら、右所有権は原告より被告狩野へ、さらに同伊藤、同第三相互、同六鹿を経て同中野へ適法に移転されたものであるから、本件各登記はいずれも実体関係に符合した適法な登記というべきである。その詳細は以下のとおりである。

(1)、原告はかねて製麦業を営んでいたものであるが、農林省大阪食糧事務所より買入れた原麦の代金三、〇三三、二八九円を支払うことができなくなったことから、保証人である大阪府ロール製粉協同組合において右代金を代払いするとともに、昭和二六年六月頃、右求償権を担保するため、原告との間で、同組合の任意選択する時期に本件不動産の所有権を同組合に移転する旨の条件付譲渡担保契約を内容とする裁判上の和解(大阪簡易裁判所昭和二六年(イ)第三五八号)を成立せしめ、同月一一日これを原因として所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。しかして被告狩野寿美は、昭和二九年一二月二六日代理人である狩野一朗を通じて、原告の承諾の下に前記協同組合から、同組合が右和解にもとづいて有する一切の権利(右条件付譲渡担保権を含む)を代金一〇〇万円で譲り受けるとともに選択権を行使して本件不動産の所有権を取得し、右仮登記上の権利移転の付記登記をなした上その本登記手続を完了したものである。

(2)、しかして、被告伊藤は被告狩野から右不動産を買受けてその所有権を取得し、また、被告泉佐野市は被告伊藤に対する滞納処分として同被告所有の右不動産を差押えてこれを公売したものであり、さらに被告第三相互は右公売処分において本件不動産を競落し、被告六鹿は被告第三相互から、被告中野は被告六鹿からそれぞれ右不動産(ただし、被告中野は別紙目録(二)の不動産のみ)を買い受けてその所有権を取得したものである。

三、原告と被告狩野寿美との間において原告主張のような裁判上の和解が成立したことは認めるが、右和解はなんら無効なものではない。すなわち、右和解は、原告、同代理人片山弁護士、被告狩野代理人河本尚弁護士および狩野一朗の四名列席の上、大阪弁護士会館において全員納得して和解条項の原案を作成し、かつ、これをそのまま大阪地方裁判所岸和田支部に呈示して和解を成立せしめたものであるから、これをもって錯誤にもとづく無効のものとすべきいわれはない。

四、被告泉佐野市(長)が昭和三三年四月一八日、被告伊藤に対する固定資産税二三二、三五〇円等の徴収のため、同被告所有の本件不動産を差押えて公売したこと、右不動産につき租税債権に優先する他の債権者の担保権が存在していたため、滞納処分費のみの徴収をなしえたにとどまったことはいずれも認める。しかし、被告泉佐野市は、この事態に備えて同年五月一〇日三重県松阪市所在の被告伊藤所有物件をも差押えていたのであって、この点からすれば、なんら無益な差押をなしたものではないというべきである。(もっとも、右松阪市所在の物件に対する差押については、昭和三五年八月二〇日被告第三相互が被告伊藤に代ってその滞納税金四二九、七一〇円を任意納付したので、その後これを解放した。)のみならず、右差押当時においては現行国税徴収法は未だ施行されておらず、しかも旧国税徴収法には新法四八条二項のごとき規定は存在していなかったのであるから、本件差押および公売処分はなんら違法でもまた無効でもないといわなければならない。なお、右差押および公売に関し、被告泉佐野市が被告第三相互と原告主張のごとき談合をしたような事実はない。

(三)  (被告狩野の主張に対する原告の反論)

一、原告より被告狩野に対する大阪地方裁判所昭和三〇年(ワ)第一九八四号不動産所有権移転登記抹消請求事件につき、昭和三一年三月三一日原告の請求を棄却する旨の終局判決がなされた後、控訴審において原告が訴を取下げたことは争わないけれども、右の訴訟は被告狩野が本件不動産についてほしいままに同被告名義の所有権移転登記をしたことを理由に、同不動産に対する所有権にもとづいてその登記の抹消登記手続を求めたものであるのに対し、本件における被告狩野に対する請求は、右移転登記が真実所有権を移転する意思がないのに原告と被告狩野とが相通じてなした仮装の譲渡行為にもとづくものであることを理由に、その抹消登記手続を求めるものであるから、本訴は、すでに取下げられた前記訴えと同一の訴えということはできず、したがって、民訴二三七条二項の禁止にふれるものではない。

第三、証拠≪省略≫

理由

(被告狩野に対する登記抹消請求について)

一、被告狩野は、同被告に対する本件登記抹消請求は、再訴の禁止を定めた民訴二三七条二項に違反して提起された不適法な訴えであると主張するので、まずこの点について検討する。

≪証拠省略≫によると、原告より被告狩野に対する大阪地方裁判所昭和三〇年(ワ)第一九八四号不動産所有権移転登記抹消請求事件につき、昭和三一年三月三一日原告の請求を理由なしとして棄却する旨の終局判決がなされたこと、その後、右事件の控訴審(大阪高等裁判所昭和三一年(ネ)第四八七号)において原告が右訴えの取下をなしたこと、右の訴訟が「原告と被告狩野との間に、昭和二九年一二月二四日、被告狩野において銀行より金一、五〇〇万円を借入れてこれを原告に貸与し、かつ、原告は被告狩野より右金員の交付を受けると同時に右債務の担保の目的で本件不動産の所有権を被告狩野に移転し、その旨の登記をするとの約定が成立していたところ、被告狩野は右約旨に従い原告に対して右金員の交付をしていないのに拘らず、ほしいままに本件不動産について、大阪法務局佐野出張所昭和二九年一二月二四日受付第四四一八号をもって所有権移転登記を了している」ことを理由に、所有権にもとづいて右所有権移転登記の抹消登記手続を求めるものであったこと、以上の各事実が認められるところ、原告の被告狩野に対する本件登記抹消請求が、「他より金融を受けるための方便として、被告狩野の夫である訴外狩野一朗と通謀して本件不動産を同被告に仮装譲渡するとともに、これにもとづいて右不動産につき大阪法務局佐野出張所昭和二九年一二月二四日受付第四四一八号をもって所有権移転登記を了した」ことを請求原因として実体関係に符合しない右所有権移転登記の抹消登記手続を求めるものであることは前記のとおりである。そこで、本件登記抹消の訴えが前訴と「同一ノ訴」であるというべきかどうかについて考えるに、原告が前訴において請求原因として主張していた具体的事実と本訴において主張している具体的事実との間に若干の差異の存することは右のとおりであるけれども、民訴二三七条二項にいわゆる「同一ノ訴」とは、同条の趣旨から考えて、訴訟物を同じうする訴えと解すべきであるから、原告の本訴請求が前訴と同一の訴えとみらるべきかどうかも、これら二つの訴えの訴訟物が同一であるかどうかの観点から判断せらるべきものといわなければならない。しかるに本件の場合は、前訴および本訴ともに、原告より被告狩野へ実体上本件不動産の所有権移転が全く行われなかったのにかかわらず、あたかもかような所有権移転が行われたかのような前記所有権移転登記が存在していることを理由に、実体関係に符合しない右登記の抹消を求めるものであって、その抹消登記請求権は、法律上は本件不動産の所有権にもとづく物権的請求権たるの性質を有するものとして、実体上同一の請求権であるとみるのが相当であり、右所有権移転登記が無権利者である被告によってほしいままになされたものであるとか、あるいは、原告と被告との間の通謀虚偽表示にもとづいてなされたものであるとかいった事情は、要するに、その登記が実体関係に符合しないことを理由づけるための攻撃方法であるにすぎず、これによって登記抹消請求の訴訟物が別異のものとなるものではないといわなければならない。そうだとすると、本件登記抹消の訴えは、終局判決後に取下げられた前訴と訴訟物を同じうする同一の訴えであるというべきであり、したがって、また、民訴二三七条二項に違反して提起された不適法な訴えであるというべきである。

もっとも、民訴二三七条二項は、折角終局判決まで受けながら任意訴えの取下をなして裁判を徒労に帰せしめた者に、再び正当の理由もなしに同一の訴えを提起することを認めるならば、裁判所をほんろうすることを許容する結果となるところから、制裁としてかような者から訴権を剥奪することをもってその趣旨とする規定であるから、たとえ終局判決後に訴えを取下げた上、さらに同一の訴えを提起したときも、後訴の提起について正当の事由もしくは前訴と異る権利保護の利益が認めらる場合には、同条二項の再訴の禁止にふれないと解するを相当とするところ、前記各証拠によると、本件の場合、原告が前訴の取下をなすにいたったのは、その関連事件であった右当事者間の大阪地方裁判所岸和田支部昭和三一年(ヨ)第一三号仮処分異議事件において裁判上の和解が成立し、その和解条項の一項として右登記抹消請求控訴事件の取下をなすことが合意されたからであり、しかも原告は、本訴において右裁判上の和解の無効を主張しているのであるから、その点において、本訴については前訴と異る権利保護の利益が認められるといわなければならないようであるけれども、右裁判上の和解がなんら無効なものと認められないことは後に詳述するとおりであるから、結局かような観点からするも本件登記抹消請求の適法性を肯認することはできないといわざるをえないのである。

(被告狩野に対する和解無効確認請求について)

二、原告と被告狩野との間において原告主張のような裁判上の和解が成立したことは当事者間に争いのないところ、原告は、右和解は無効であると主張するので、次にこの点について考える。

(一)、原告は、右和解は事件の当事者でもまたその代理人でもない訴外狩野一朗が関与して成立したものであるから無効であるという。なるほど、≪証拠省略≫ならびに弁論の全趣旨によると、右和解が成立するについては、被告狩野の夫ではあるが事件の当事者でもまた同被告の代理人でもない訴外狩野一朗の意向がかなりの程度反映していたことが窺われる。しかしながら、裁判上の和解といえども一面において私法上の和解契約たるの実質をもつものであるから、和解の成立ないしその内容について、事実上第三者の意向が反映し、盛り込まれていたとしても、当事者もしくはその代理人の任意の合意が存在するかぎり、その当事者間の和解としては完全に有効なものといわなければならない。しかるに、右各証拠によると、本件裁判上の和解が原告およびその代理人片山通夫弁護士と被告狩野の代理人である河本尚弁護士との間の任意の合意にもとづいて成立したものであることは明らかであるから、たとえ前記のごとき事情が認められるとしても、その故に本件和解が無効となるものではないというべきである。

(二)、次に原告は、右和解はその要素に錯誤があるから無効であると主張する。しかしながら、原告がその主張のごとき事情があったことから本件和解条項を承諾するにいたったとの点についてはこれを認めるに足りる証拠がないばかりでなく(原告本人は、和解成立後に被告狩野もしくは狩野一朗の行為を刑事事件とすれば、右和解も無効に帰すると思って和解した、と供述しているにすぎない)、当時、本件不動産の所有権が原告に属していなかったことは後に認定するとおりであるから、右錯誤の主張もまた採用するに由がない。

すると、本件和解無効確認請求はいずれの点よりするも理由がないといわなければならない。

(被告伊藤、同第三相互、同六鹿、同中野に対する請求について)

三、本件不動産がかねて原告の所有であったこと、同不動産につき原告主張のごとき右各被告名義の所有権移転登記が存在することはいずれも当事者間に争いのないところ、被告らは、右所有権は原告から被告狩野へ、さらに同被告から同伊藤、同第三相互、同六鹿を経て同中野へ適法に移転されたものであるから、右各登記はいずれも実体関係に符合したものであると主張するので、以下この点について判断する。

≪証拠省略≫を総合すると次の各事実が認められる。すなわち、

(一)、原告はかねて製麦業を営んでいたものであるが、自己の不始末から負担した債務を連帯保証人である大阪府ロール製粉協同組合が代って弁済したことから、同協同組合に対し金三、〇三三、二八九円の求償債務を負担することとなり、かつ、昭和二六年五月二二日、同組合との間の大阪簡易裁判所昭和二六年(イ)第三五八号求償債務金請求事件について裁判上の和解をなし、右和解において前記求償債務の存在を認めるとともに、これを担保するため、本件不動産の所有権を同組合の任意選択する時期に同組合に移転することを約し、同年六月一一日これを原因として右不動産につき所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。

(二)、一方、被告狩野の夫である狩野一朗は、原告に対し債権を有していた豊川村農業協同組合からその債権の取立を委任されたことから原告を知るようになり、やがて、原告の懇請により、本件不動産を担保に他より金融を受けて事業再建のための資金に充てることを一任されるようになったものであるが、原告の不信行為もあって容易に金融を得ることができなかったことから、これを自己の妻被告狩野名義にすれば金融の途も新たに開けるものと考え、被告狩野の協力を得て、前記協同組合に対し事情を説明して前記和解契約上の権利の譲渡を懇請したところ、同組合においてもこれを容れることとし、昭和二九年一二月一六日金一〇〇万円で右権利を被告狩野に譲渡し、かねて右権利の譲渡を希望していた原告も即日これを承諾するにいたった。

(三)、かくて被告狩野は、同年同月二四日、本件不動産についての前記仮登記上の権利移転の付記登記を了するとともに、和解契約上の選択権を行使して本件不動産の所有権の移転を受け、かつ、右仮登記の本登記として、別紙登記一覧表1欄記載の所有権移転登記をなした。

以上の各事実が認められるのであって、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他にこれを動かすに足りる証拠はない。そうだとすると、原告は昭和二九年一二月二四日かぎり本件不動産の所有権を喪失するにいたったものというべきであるから、原告の被告伊藤、同第三相互、同六鹿、同中野に対する各登記抹消請求は、それらの登記が実体関係に符合するかどうかにかかわりなく、その法律上の根拠を欠くものとして失当たるを免れないといわざるをえない。

(被告泉佐野市に対する請求について)

四、昭和三三年四月一八日、被告伊藤に対する固定資産税等の徴収のため、本件不動産について差押がなされ、次いでこれが公売処分に付されたことは当事者間に争いのないところ、原告は右各処分は無効であるとしてその無効確認を請求している。しかしながら、原告が右処分のなされる以前からすでに本件不動産の所有権を喪失するにいたっていたことは前記認定のとおりであるから、右差押および公売は、原告にとっては他人の所有物についてなされた処分というべきものであって、原告がこれについて無効確認を求める法律上の利益はなんら存しないといわなければならない。しからば、右請求はその当否について判断するまでもなく、訴の利益を欠くものとして不適法といわなければならない。

(結論)

五、以上のとおりであるとすると、原告の被告狩野に対する所有権移転登記抹消登記手続請求同泉佐野市に対する請求はいずれも不適法であるからこれを却下することとし、被告狩野(和解無効確認)被告伊藤、同第三相互、同六鹿、同中野に対する各請求はいずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 藤原弘道 福井厚士)

<以下省略>

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